パンダの所有権はどこに？日本生まれのパンダも返還される理由

先日、アドベンチャーワールドで飼育中のパンダ4頭が中国に「帰国する」と発表されました。

このたび、アドベンチャーワールドで暮らす４頭のジャイアントパンダが、２０２５年６月末頃に、中国四川省の成都ジャイアントパンダ繁育研究基地に帰国することが決まりましたので、お知らせいたします。

＊引用元：アドベンチャーワールド公式サイト

この発表だけを見たら、「中国生まれのパンダが中国に帰るのかな？」と思うのではないでしょうか。

ですが、実は、今回中国に帰るパンダたちはみんな日本生まれ。生まれてから一度も中国で暮らしたことはないんです。

「中国生まれじゃないのに、中国に『帰国』ってどういうこと？」と疑問が湧きますよね。これには、ちょっぴり複雑な「所有権」の問題が関わっているんです。

もうすぐやってくるパンダたちとのお別れのニュースを正しく理解し、その未来を温かく見守るためにも、パンダの所有権ついて詳しく解説していきます。

日本のパンダの所有権はどこに？現在の制度の基本を解説

日本の動物園にいるパンダたちのかわいい姿を見ていると、すっかり日本のシンボルのように感じられますよね。

特に、日本で生まれ育ったパンダたちには、なおさら「私たちのパンダ」という気持ちが強くなるものです。

しかし、パンダたちを「所有権」や「国籍」の観点から見ると、実は少し複雑な事情があります。まずは意外と知られていないパンダの所有権について基本的な情報を押さえていきましょう。

現在日本国内にいる全てのパンダの所有権は中国にある

2025年6月現在、日本国内の動物園で飼育されているジャイアントパンダの所有権は、すべて日本ではなく中国側が持っています。

日本の動物園のパンダは、繁殖研究を目的として一時的に中国から「借りる」形式で来園しています。「もらった」わけではないので、決められた期限が来たら「返す」必要があります。

これは、中国からやってきたパンダだけでなく、日本で誕生したパンダについても扱いは変わりません。日本で生まれ育ったパンダであっても、生まれた瞬間から所有権は中国にあり、やがて中国に「返還（＝帰国）」しなければいけないのです。

日本で生まれたパンダも国籍は中国にある

中国から貸与されたパンダから子どもが生まれたら、子パンダの所有権も親パンダと同じように中国側が持つことになっています。これは、親パンダを借りる際の協定が「海外で生まれた子パンダの所有権も中国に帰属する」という内容になっているためです。

海外の動物園で生まれたパンダの子どもたちは、将来的に中国国内で数多くのパンダの数多くのパンダの中から最適な繁殖相手を見つけるために、繁殖可能な年齢に達する頃（通常2歳から6歳くらい）に中国へ返還されます。

これまでに日本生まれのパンダも数多く中国に返還されていますが、だいたい4歳から6歳くらいまでに返還されることが多かったようです。

名前	動物園	誕生年	返還年	返還時年齢
雄浜	アドベンチャーワールド	2001年	2004年	3歳
隆浜	アドベンチャーワールド	2003年	2007年	4歳
秋浜	アドベンチャーワールド	2003年	2007年	4歳
幸浜	アドベンチャーワールド	2005年	2010年	4歳
愛浜	アドベンチャーワールド	2006年	2012年	6歳
明浜	アドベンチャーワールド	2006年	2012年	6歳
梅浜	アドベンチャーワールド	2008年	2013年	4歳
永浜	アドベンチャーワールド	2008年	2013年	4歳
海浜	アドベンチャーワールド	2010年	2017年	6歳
陽浜	アドベンチャーワールド	2010年	2017年	6歳
優浜	アドベンチャーワールド	2012年	2017年	4歳
桜浜	アドベンチャーワールド	2014年	2023年	8歳
桃浜	アドベンチャーワールド	2014年	2023年	8歳
シャンシャン	上野動物園	2017年	2023年	5歳

＊参考：返還のパンダ、白浜生まれでも所有権は中国　3頭はパートナー探しへ | 毎日新聞

レンタル期間と返還のルール

パンダの貸与契約は、通常10年間で結ばれることが多く、その後は双方の合意によって延長されることもあります。例えば、神戸市立王子動物園で愛されたタンタンも、最初の10年契約のあと、5年ごとに契約が更新されていました。

契約期間が満了すれば、パンダを中国へ返還するのが基本ルールです。しかし、返還の理由はそれだけではありません。繁殖の役目を終えたり、高齢になったりした場合、より手厚いケアが受けられる中国の専門施設で穏やかに過ごすために、契約期間の途中で返還が決まることもあります。

例えば、2024年に返還された上野動物園のリーリーとシンシンも、高齢期に入る2頭の健康を最優先に考えた決定だといえるでしょう。

また、日本で生まれた子供たちは、繁殖のパートナーを探すために2歳から6歳くらいで返還されます。日本国内で暮らし続けるよりも、より多くのパンダがいる中国に帰ることで、最適な繁殖相手と出会える可能性が高まるのです。

ただし、ここまで紹介してきたような所有権の取り決めは比較的最近になってからのもので、少し時代をさかのぼるとまた違った側面が見えてきます。「パンダ＝中国のもの」が確立されていった経緯をたどっていきたいと思います。

＊上野動物園のパンダ、中国に支払うレンタル料は｜日経新聞

「贈与」から「貸与」へ。パンダの所有権の歴史

1970年代ごろまで、中国は友好の印としてパンダを諸外国へ贈ることがしばしばあり、これは「パンダ外交」として知られています。

日本に初めてやってきたパンダとして一大ブームを巻き起こした上野動物園のカンカンとランランも、1972年の日中国交正常化を記念して、中国から「贈与」されたパンダでした。

しかし1980年代以降、状況は大きく変わります。

野生のジャイアントパンダの個体数が減少し、絶滅の危機が国際的に認識されるようになると、パンダの国際的な取引は厳しく規制されることになりました。

1981年に「ワシントン条約」に加盟した中国は、パンダを「贈与」するのではなく、種の保存を目的とした「共同研究」のために海外へ「貸与（レンタル）」する方針に転換したのです。

当初は短期的なレンタルが主流でしたが、1990年代からは「繁殖研究」を目的とした長期的な貸与へと発展していきます。

そして現在のように、「共同研究のパートナー」として各国の動物園がパンダを借り受け、中国に対して協力金を支払う形が国際的な標準となっています。

年	できごと
1972年	日本初のパンダ（カンカン、ランラン）が上野動物園に贈与される
1981年	中国がワシントン条約に加盟 →贈与から貸与制度への移行開始
1994年	世界初の「繁殖研究」目的のパンダ（永明、蓉浜）がアドベンチャーワールドへ →以降、すべてのパンダは貸与制度に基づき来園
2000年	タンタンとコウコウが神戸市立王子動物園に来園（貸与）
2011年	リーリーとシンシンが上野動物園に来園（貸与）

＊参考：手作りフリップ：中国「パンダ外交」の歴史…最初に贈られたのは日本の“敵国”？ 50年前の“パンダ攻勢”背景に台湾問題？｜サンデーモーニング｜TBSテレビ
＊参考：ワシントン条約（CITES）とは？その誕生と仕組みについて ｜WWFジャパン

例外も？メキシコにいる「特別なパンダ」

現在、世界中のほとんどのパンダの所有権が中国にある中で、実はごくわずかな「例外」が存在します。その代表的な例が、メキシコのチャプルテペック動物園の「シンシン」というメスのパンダで、現在世界で唯一、中国が所有権を持たない「メキシコ国籍」のパンダです。

これはシンシンの祖父母が、中国のパンダ政策が「贈与」から「貸与」に切り替わる前の1975年に、メキシコへ「贈与」されたパンダだったことに由来します。

チャプルテペック動物園では初代ペアのインイン（メス）とペペ（オス）の間で7頭の繁殖に成功し、そのうちの1頭のトウイ（メス）と中国から贈与されたチアチア（オス）の間にシンシンが生まれました。

贈与されたパンダの血を引いているために、自身もメキシコのパンダとして中国に返還されることなく過ごしているのです。まさに、パンダの所有権の歴史を物語る、生き証人のような存在といえますね。

＊参考：中国籍ではない唯一のパンダがメキシコにいる理由　「繁殖の名門」動物園で長寿を保つ：朝日新聞GLOBE＋

日本のパンダの現状と未来：パンダが日本からいなくなる？

これまでパンダの所有権の基本的な部分を学んできましたが、一番気になるのは、基本的なルールを踏まえて「今、日本にいるパンダたちはどうなるの？」というところですよね。

実は、日本のパンダの歴史は今、大きな転換期を迎えています。

近い将来、相次いで中国への返還が予定されており、もしかしたら日本の動物園からパンダがいなくなってしまうかもしれないのです。

ここでは、上野動物園と和歌山アドベンチャーワールドのパンダの最新情報を見ていきたいと思います。

上野動物園のパンダは2026年2月が返還期限

上野動物園は日本で初めてパンダがやってきた動物園です。1972年のランラン・カンカン初来日以来、歴代15頭のパンダが暮らしてきました。

2011年に来園したリーリー（オス）とシンシン（メス）の間には、シャンシャン（2017年生まれのメス）、双子のシャオシャオ・レイレイ（2021年生まれのオス・メス）という、3頭の可愛い子どもたちが生まれました。

長女のシャンシャンが2023年の2月に一足先に中国に帰国後、リーリーとシンシンも高齢になったことへの配慮から、2024年9月に中国へ返還されました。

そのため、現在上野動物園で会えるパンダは、双子のシャオシャオとレイレイの2頭だけになっています。そして、この双子たちも返還期限が2026年2月20日に迫っています。

名前	出身地（動物園）	誕生or来園年	返還年	備考
リーリー	中国	2011年来園	2024年	高齢と健康状態を考慮し返還
シンシン	中国	2011年来園	2024年	高齢と健康状態を考慮し返還
シャンシャン	上野動物園	2017年誕生	2023年	繁殖適齢期のため返還
シャオシャオ	上野動物園	2021年誕生	—	2026年2月が返還期限
レイレイ	上野動物園	2021年誕生	—	2026年2月が返還期限

＊参考：ジャイアントパンダ「リーリー」と「シンシン」の返還について（※中国ジャイアントパンダ保護研究センター碧峰峡基地に到着） ｜ 東京ズーネット

アドベンチャーワールドパンダは2025年6月に全頭返還

和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドは、中国を除けば世界一のパンダ繁殖実績を誇る動物園で、これまでに歴代20頭のパンダが暮らしてきました。1994年に世界初となる日中共同繁殖研究をスタートしたことでも有名です。

ですが、その30年以上にわたる歴史にも大きなターニングポイントが訪れようとしています。現在アドベンチャーワールドで暮らしている、良浜・結浜・彩浜・楓浜の4頭全員が、2025年6月28日に中国へ一斉に返還されることが決まったのです。

これは、長年続いてきた日中共同の繁殖研究プロジェクトが契約満了を迎えるためで、良浜は高齢のため、娘たちは繁殖のため、というそれぞれの理由もあります。

この返還により、2025年6月末以降、アドベンチャーワールドからパンダがいなくなる見通しです。

名前	出身地（動物園）	誕生年	返還年
良浜（らうひん）	アドベンチャーワールド	2000年	2025年
結浜（ゆいひん）	アドベンチャーワールド	2016年	2025年
彩浜（さいひん）	アドベンチャーワールド	2018年	2025年
楓浜（ふうひん）	アドベンチャーワールド	2020年	2025年

＊参考：４頭のジャイアントパンダの帰国日が決定しました２０２５年６月２８日（土）に中国・成都へ帰国、６月２７日（金）に歓送セレモニーを開催｜トピックス｜アドベンチャーワールド

まとめ：日本のパンダと所有権の今後

ここまで見てきたように、日本のパンダの所有権はすべて中国にあり、その背景には「贈与」から「共同研究」へと変わった歴史と、中国との国際的な取り決めが存在します。

そして今、日本のパンダ事情は大きな転換点を迎えています。2025年から2026年にかけて相次ぐ返還により、日本からパンダがいなくなる可能性も現実味を帯びてきました。

今後の新たなパンダの来日については、現時点では具体的なニュースは出ていません。しかし、この機会に日本の動物園にパンダがいる理由や、パンダたちが担う「種の保存」という国を越えた大切な役割について知っていただけたらうれしいです。