マヌルネコは、2020年に「準絶滅危惧」から「軽度懸念」に引き下げられ、今は絶滅危惧種ではありません。
ですが、野生のマヌルネコは今も生息数が減っていると見られていて、2024年には国際条約で新たに保護されるべき動物として指定されるなど、絶滅の心配は依然として残されています。
この記事では、マヌルネコの保全状況の最新の評価と生息数を紹介するとともに、数が減っている理由や保護の取り組みについても解説します。
それに関連して、日本の動物園がマヌルネコの保護活動に対して果たしている役割も紹介します。
マヌルネコは絶滅危惧種?
世界の野生動物がどれぐらい絶滅のおそれがあるかは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストという国際的な指標で評価されています。
IUCNのほかに、国や地域ごとのレッドリストもあり、日本では環境省が国内の野生生物のレッドリストを作っています。なお、野生のマヌルネコは日本には生息していないので、環境省のレッドリストには載っていません。
マヌルネコはIUCNのレッドリストで、2016年まで長い間「準絶滅危惧(NT)」とされてきましたが、2020年の評価で「軽度懸念(LC)」に引き下げられました。
なぜ引き下げられたかというと、生息数などに関する詳しい調査が進んで、当初の想定よりも生息している範囲が広く、個体数も比較的多いことが分かってきたためです。
ただし、ランクが引き下げられたからといって、完全に絶滅の危険性がなくなったわけではありません。
ちなみにIUCNのレッドリストには9段階の区分があり、「絶滅(EX)」と「野生絶滅(EW)」を除いて上から3番目までが、いわゆる「絶滅危惧種」にあたります。
| 区分 | 英語の略称 | 意味 |
|---|---|---|
| 絶滅 | EX | すでに絶滅した |
| 野生絶滅 | EW | 飼育下でだけ生き残っている |
| 深刻な危機 | CR | 絶滅危惧種(絶滅の危険がきわめて高い) |
| 危機 | EN | 絶滅危惧種(絶滅の危険が高い) |
| 危急 | VU | 絶滅危惧種(絶滅の危険が増している) |
| 準絶滅危惧 | NT | 今後、絶滅危惧種になるおそれがある |
| 軽度懸念 | LC | 絶滅のおそれが低い マヌルネコはここ! |
| 情報不足 | DD | 評価するための情報が足りない |
| 未評価 | NE | まだ評価されていない |
マヌルネコの生息数は世界で何頭?
野生のマヌルネコの生息数は、世界で成熟したおとなの個体で約5万8,000頭と見積もられています。
この数は、2020年のIUCNの評価の際に示された暫定的なもので、実際は今も減り続けていると考えられています。
マヌルネコは中央アジアの16か国に分布していると考えられていますが、生息地は小さなエリアに分かれて点在しています。
人が立ち入るのが難しい高地にいることが多いため、正確な数を数えるのがとても難しい動物です。
一方、日本国内の動物園で飼育されているマヌルネコは、2024年末に7園24頭、2025年末に9園22頭、2026年10月時点で9園26頭です。
ここ数年で赤ちゃんの誕生が続き、少しずつではあるものの飼育数が増加傾向にあります。
マヌルネコの生息数が減っている3つの理由
野生のマヌルネコが減っているのには、次のような理由があります。
- 生息地の縮小や分断
放牧や開発で、すみかや獲物が減る - 獲物のナキウサギの駆除
毒餌で、主な獲物が減る - 密猟や、他の動物を狙った罠
毛皮目的の狩りや、罠にかかる事故
このほかに、気候変動による草原や山地の環境の変化なども心配されています。
どの理由も、マヌルネコが暮らす土地での人間の活動と深く関わっています。
①生息地の縮小や分断
マヌルネコが減っている原因として最も大きいのが、家畜の放牧が増えて生息地の草原が荒れ、すむことができなくなってしまうことです。
今、中央アジアでは放牧のエリアが広がっています。家畜に草原の草を食べ尽くされると、マヌルネコの獲物になる小型の草食動物が減り、結果的にマヌルネコも減ってしまうのです。
草原が開拓されて畑になったり、鉱山の開発で生息エリアが分断されたりすることによっても、マヌルネコの生息できる場所が狭まっています。
マヌルネコは岩のすき間やほかの動物の古い巣穴を寝床にしているので、こうした場所が減ると生きるのが難しくなってしまいます。
②獲物のナキウサギの駆除
マヌルネコがいちばんよく食べている獲物は、ナキウサギというウサギの仲間です。
モンゴルでの研究では、マヌルネコは、ほかの小動物より2〜4倍大きいナキウサギを選んで食べていることが分かりました。
ところが中国やモンゴルでは、牧草を食べるナキウサギなどの小動物を毒餌で駆除することがあります。
獲物が減ると、マヌルネコも食べ物に困ってしまうため、こうした駆除もマヌルネコをおびやかすおそれがあると指摘されています。
③密猟や、他の動物を狙った罠
生息数が減っている原因のひとつが、マヌルネコの毛皮を狙った密猟です。
生息する16か国のうち12か国では法律で守られている一方、モンゴルでは狩猟が認められているのが現状です。
また、他の動物を捕るために仕掛けられた罠にかかってしまうことや、人が飼っている犬に襲われることもあります。
マヌルネコの保護活動
マヌルネコを守るために、国際条約や保全団体による取り組みが進められています。
野生動物の国際的な取り引きを規制するワシントン条約では、マヌルネコは附属書IIに掲載されていて、国をまたいで取り引きするには輸出する国の許可が必要です。
2024年2月には、ウズベキスタンのサマルカンドで開かれた会議で、CMS(移動性野生動物種の保全に関する条約)の附属書IIに、マヌルネコが新たに加えられました。
- 正式名称
The Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals(移動性野生動物種の保全に関する条約)。ドイツのボンで採択されたので「ボン条約」とも呼ばれる - どんな条約か
国境を越えて行き来する野生動物を、暮らしている国どうしが協力して守るための国際条約 - 附属書II
国どうしの協力で保全を進める必要がある動物の一覧。マヌルネコは2024年2月の締約国会議(COP14)で加わった
附属書IIへのマヌルネコの追加は、カザフスタンが提案したものです。2024年から2030年まで、生息地の国どうしが協力して調査や保護を進めることになっています。
マヌルネコの生息地は国境付近にあることが多く、国境の両側の国どうしで協力することがマヌルネコを守るために欠かせません。
保全団体では、PICA(マヌルネコ国際保全同盟)がマヌルネコの保護に取り組んでいます。
PICAは、毎年4月23日を「国際マヌルネコの日」として、マヌルネコの現状を広く知ってもらう活動もしています。
- 正式名称
Pallas’s Cat International Conservation Alliance(マヌルネコ国際保全同盟) - どんな団体か
マヌルネコだけを専門にした、世界で唯一の国際的な保全プロジェクト。2016年3月に始まった - 運営
ノーデンズ・アーク、スコットランド王立動物学協会、スノーレパード・トラスト、セグレ財団の4団体 - 活動
保全戦略づくり、生息地の調査、現地の研究者の育成。小規模な助成で9か国18のプロジェクトを支援していて、資金の多くはマヌルネコを飼育する動物園から出ている
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日本の動物園の役割
2026年10月時点で、日本国内でマヌルネコを飼育している動物園は次の9か所です。
(動物園名から、各園の展示場所や見どころを紹介した記事に飛ぶことができます。)
| 動物園 | 都道府県 | 飼育数 | 見どころ |
|---|---|---|---|
| 旭山動物園 | 北海道 | 2頭 | ・2026年に増築した新展示場 ・雪国ならではの日本一モフモフな冬毛 |
| 那須どうぶつ王国 | 栃木県 | 2頭 | ・屋外展示場「マヌル・アマルハン」(2頭を不定期で展示) |
| 埼玉県こども動物自然公園 | 埼玉県 | 3頭 | ・乾燥した岩場をイメージした「マヌルロック」 |
| 上野動物園 | 東京都 | 4頭 | ・昼の姿と夜の姿を両方観察できる |
| 野毛山動物園 | 神奈川県 | 1頭 | ・2025年11月に園として初めて飼育を開始 |
| 東山動植物園 | 愛知県 | 5頭 | ・2025年生まれのノブ・ヤス |
| ごかつら池どうぶつパーク | 三重県 | 1頭 | ・2025年12月に園として初めて飼育を開始 |
| 王子動物園 | 兵庫県 | 1頭 | ・マヌルネコを含む珍しいネコ科6種 |
| 神戸どうぶつ王国 | 兵庫県 | 7頭 | ・2026年5月生まれの5頭と母親のアズの親子展示 |
日本の動物園は、マヌルネコの飼育・繁殖によって個体数の維持・増加に努めたり、より多くの人にマヌルネコを知ってもらったりする役割を担っています。
近年は、上野動物園や神戸どうぶつ王国、東山動植物園で立て続けに赤ちゃんが生まれていて、マヌルネコの人気が高まるとともに、国内の飼育数も少しずつ増えています。
また、那須どうぶつ王国が2021年に公開した「マヌルネコのうた」の公式ミュージックビデオは、2026年10月時点で550万回以上再生されていて、マヌルネコを知るきっかけになった人も多いはずです。
国際的な保全活動にも積極的に協力していて、たとえば埼玉県こども動物自然公園では、国際マヌルネコの日のグッズの売り上げをPICAに寄付しています。
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まとめ
マヌルネコの保全状況と、生息数が減っている理由、保護の取り組みについて解説しました。
マヌルネコは、IUCNのレッドリストで2020年に準絶滅危惧から軽度懸念に引き下げられ、今のところは絶滅危惧種には指定されていません。
それでも、生息地の減少・分断や獲物の減少などのさまざまな理由で、生息数が減少しているのが現状です。
国際条約や国際的な保全団体によって、マヌルネコを保護する取り組みが進んでいて、日本の動物園も、繁殖や情報発信などの大切な役割を担っています。

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