日本の動物園で生まれ育ったパンダも、ある時期が来ると中国へ「返還」されます。
その理由は、最近まで日本にいたパンダは、日本で生まれた子どもも含めてすべて中国の所有で、中国から借りている状態だからです。
2026年1月には上野動物園の双子のシャオシャオ・レイレイが中国へ返還され、日本の動物園からジャイアントパンダがいなくなりました。
この記事では、パンダを中国に返還する理由や所有権の仕組み、返還時期の決まり方、レンタル料、これまでに日本から返還されたパンダの一覧まで、まとめて解説します!
パンダを中国に返還するのはなぜ?4つの理由
中国に返還されるのは、中国から日本にやってきたパンダだけではありません。
上野動物園のシャンシャンや、アドベンチャーワールドの桜浜・桃浜のように、日本で生まれたパンダも中国に返還されています。
日本で生まれたのなら「日本のパンダ」のような気がしますが、なぜ中国に返さなければいけないのでしょうか?
主な理由は、次の4つです。
- パンダの所有権が中国にあるから
- 協定で貸し出し期間が決まっているから
- 中国で繁殖相手を探すため
- 高齢のパンダを中国でケアするため
①パンダの所有権が中国にあるから
いちばん大きな理由は、パンダの所有権が中国にあることです。
日本の動物園にいたパンダは、中国から「もらった」のではなく、中国から「借りている(貸与)」状態でした。
借りているものなので、決められた時期が来たら返さなければいけません。
さらに、貸し出されたパンダから生まれた子どもの所有権も中国にあると、協定で決められています。
そのため、日本で生まれたパンダも返還の対象になるのです。所有権の仕組みや、なぜ「貸与」になったのかは、この後詳しく紹介します。
②協定で貸し出し期間が決まっているから
パンダを受け入れる動物園は、中国野生動物保護協会と協定を結び、その中で貸し出し期間を決めます。
期限が来たら、原則としてパンダを中国に返還しなければいけません。
貸し出し期間は10年が基本で、双方が合意すれば延長されることもあります。
例えば、上野動物園のリーリー・シンシンは、2011年に10年間の予定で来園し、2021年に5年間の延長が決まりました。
③中国で繁殖相手を探すため
日本で生まれた子どものパンダが返還されるのは、繁殖相手(パートナー)を探すためでもあります。
日本国内にいたパンダは、多い時期でも13頭ほどでした。年齢や血縁関係を考えると、日本国内で相性のよい相手を見つけるのはとても難しいのが実情です。
一方、世界で飼育されているパンダは808頭(2025年11月発表)で、その9割以上が中国で暮らしています。
中国に帰れば、遺伝的に相性のよい相手を選べるのです。
実際に、アドベンチャーワールドで生まれて中国に返還されたパンダの多くが中国で新たなパートナーと出会い、これまでに20頭以上の子孫が誕生しています。
④高齢のパンダを中国でケアするため
貸し出し期間の途中でも、高齢や健康状態を理由に返還が決まることがあります。
2024年9月に返還された上野動物園のリーリーとシンシンは、ともに19歳で、高血圧の治療を受けていました。
2頭は、期限の2026年2月を待たずに、中国の専門施設で療養するために返還されています。
また、2025年6月に返還されたアドベンチャーワールドの良浜も、24歳という高齢であることが返還の理由のひとつとされています。
パンダの所有権はどこにある?
日本の動物園で長く暮らしたパンダたちは、「日本のパンダ」として親しまれてきました。
ですが、所有権という点で見ると、1980年代半ば以降に日本へやってきたパンダは、日本で生まれた子どもも含めてすべて中国のものです。
ここでは、日本生まれのパンダの所有権の扱いと、「贈与」から「貸与」へ変わっていった歴史、そして世界でもめずらしい例外を紹介します。
日本生まれのパンダも所有権は中国
パンダを借りる際の協定では、「貸し出されたパンダから生まれた子どもの所有権も中国に帰属する」と決められています。
そのため、日本で生まれ育ち、一度も中国で暮らしたことのないパンダでも、生まれた瞬間から所有権は中国にあります。
2025年にアドベンチャーワールドのパンダ4頭が中国へ「帰国」すると発表されたとき、4頭はすべて日本生まれでした。
中国で暮らしたことがないのに「帰国」と表現されたのは、所有権が中国にあるパンダだからなのです。
「贈与」から「貸与」へ:パンダの所有権の歴史
1970年代から80年代のはじめにかけて、中国は友好の証として各国にパンダを贈っていました。いわゆる「パンダ外交」です。
1972年に日本で初めて上野動物園にやってきたカンカン・ランランも、日中国交正常化を記念して中国から「贈与」されたパンダでした。1980年に来園したホァンホァン、1982年に来園したフェイフェイも、同じように贈られたパンダです。
贈与されたパンダは受け取った国のものなので、その子どもを中国に返す必要もありませんでした。
転機となったのは、1981年に中国がワシントン条約に加盟したことです。
パンダの国際的な取引が厳しく制限されるようになり、1984年ごろを最後に贈与は行われなくなりました。代わりに始まったのが、期限付きの「貸与(レンタル)」です。
1994年には、アドベンチャーワールドに永明と蓉浜が来園し、繁殖研究を目的とした「ブリーディングローン」による日中共同繁殖研究が始まりました。
ブリーディングローンは、ジャイアントパンダでは世界で初めての取り組みで、これ以降、日本にやってきたパンダはすべて貸与になっています。
| 1972年 | カンカン・ランランが上野動物園に贈与される(日本初のパンダ) |
|---|---|
| 1981年 | 中国がワシントン条約に加盟 |
| 1984年ごろ | 中国がパンダの贈与をやめ、貸与へ切り替える |
| 1994年 | 永明・蓉浜がアドベンチャーワールドに来園(世界初のブリーディングローン) |
| 2000年 | タンタン・コウコウが神戸市立王子動物園に来園(貸与) |
| 2011年 | リーリー・シンシンが上野動物園に来園(貸与) |
- 正式名称は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)。略して「CITES」
- アメリカのワシントンで採択されたため通称「ワシントン条約」
- 絶滅のおそれのある野生動植物を守るために、過度な国際取引を規制する国際条約
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例外:メキシコにいる「中国に所有権がないパンダ」
世界のパンダのほとんどは中国に所有権がありますが、ごくわずかな例外もあります。
その代表が、メキシコシティのチャプルテペック動物園で暮らすメスのシンシンです。
シンシンの祖父母にあたるペペとインインは、中国の方針が贈与から貸与に切り替わる前の1975年に、中国からメキシコへ贈与されたパンダでした。
シンシンは、ペペとインインの娘トウイと、ロンドン動物園から繁殖のためにやってきたチアチアの間に、1990年7月1日に生まれました。
贈与されたパンダの血を引いているため、シンシンはメキシコのパンダとして中国に返還されることなく暮らしています。
2026年7月には36歳を迎え、飼育下のパンダの中でも屈指の長寿として話題になりました。まさに、パンダの所有権の歴史を物語る存在といえます。
パンダの返還ルールまとめ
ここまで紹介してきた返還の理由と所有権の仕組みをもとに、パンダの返還に関するルールをまとめると次のようになります。
- 日本生まれのパンダも含めて、すべてのパンダを中国に返還する
- 貸し出し期間は協定で決められ、10年が基本(延長されることもある)
- 日本生まれのパンダの返還期限は、原則「生後24カ月」
- 返還の時期は、状況に応じて延期・変更されることがある
- 日本で亡くなった場合も、所有権は中国のまま
それぞれのルールについて、具体的な例とあわせて詳しく見ていきましょう。
貸し出し期間は10年が基本、延長されることもある
中国からやってくるパンダの貸し出し期間は、10年で結ばれることが多く、その後は双方の合意によって延長されることもあります。
例えば、神戸市立王子動物園のタンタンは、2000年に来園したあと、協定の延長を重ねながら20年以上を神戸で過ごしました。
数か月単位の短い期間で貸し出されることは、基本的にありません。
パンダの輸送には時間やお金がかかるうえ、パンダ自身にも大きなストレスになります。
新しい環境に慣れるまでにも時間がかかるため、数年単位の長い期間で貸し出されるのです。
日本生まれのパンダは何歳で返還される?
日本で生まれたパンダの返還期限は、協定上は原則「生後24カ月(満2歳)」と決められています。
ただ、24カ月ぴったりで返還されることはほとんどありません。
2歳ごろから中国側と協議を始め、パンダの健康状態や受け入れ先の準備などを踏まえて、実際の返還日が決まります。
これまでの例を見ると、日本生まれのパンダの多くは2歳すぎ〜8歳ごろに返還されています(下の「歴代一覧」を参照)。
返還の時期は延期・変更されることもある
一度決まった返還期限でも、状況に応じて延期・変更されることがあります。
2017年に上野動物園で生まれたシャンシャンは、もともと2020年12月末までに返還される予定でした。
しかし、新型コロナウイルスの影響などで返還が延期され、実際に返還されたのは5歳のときの2023年2月でした。
王子動物園のタンタンも、2020年に返還される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響と持病の心臓病の治療のため、返還が延期されていました。
反対に、リーリー・シンシンのように、健康上の理由で期限より早く返還されることもあります。
パンダのレンタル料(協力金)はいくら?
パンダを借りるためには、中国側にお金を支払う必要があります。
上野動物園のリーリー・シンシンの場合、2頭で年間95万ドル(約1億円)を東京都が支払っていました。
このお金は「レンタル料」と呼ばれることが多いですが、実際には野生のパンダの保護や研究に使われる協力金という位置づけです。
ワシントン条約では商業目的のパンダの取引が禁止されているため、あくまで保護・研究への資金として支払われています。
なお、民間の施設であるアドベンチャーワールドは金額を公表していませんが、ペアで借りる場合は年間100万ドル前後が通例といわれています。
日本で亡くなった場合はどうなる?
貸し出されているパンダが日本で亡くなった場合も、所有権は中国のままです。
王子動物園のタンタンは、返還の延期が続くなか、2024年3月に心臓病による衰弱のため28歳で亡くなりました。
その後、タンタンのはく製などは、日中共同の繁殖研究の協定に基づいて中国へ返還されています。
日本で亡くなったとしても、「中国から借りているパンダ」であることに変わりはないのです。
日本生まれで中国に返還されたパンダ一覧【歴代】
これまでに日本で生まれ、中国に返還されたパンダは20頭います。
そのうち17頭がアドベンチャーワールド生まれ、3頭が上野動物園生まれです。
生まれた年と返還された年を一覧にまとめると、次のとおりです。
| 名前 | 生まれた動物園 | 生まれた年 | 返還された年 |
|---|---|---|---|
| 雄浜(ゆうひん) | アドベンチャーワールド | 2001年 | 2004年 |
| 隆浜(りゅうひん) | アドベンチャーワールド | 2003年 | 2007年 |
| 秋浜(しゅうひん) | アドベンチャーワールド | 2003年 | 2007年 |
| 幸浜(こうひん) | アドベンチャーワールド | 2005年 | 2010年 |
| 愛浜(あいひん) | アドベンチャーワールド | 2006年 | 2012年 |
| 明浜(めいひん) | アドベンチャーワールド | 2006年 | 2012年 |
| 梅浜(めいひん) | アドベンチャーワールド | 2008年 | 2013年 |
| 永浜(えいひん) | アドベンチャーワールド | 2008年 | 2013年 |
| 海浜(かいひん) | アドベンチャーワールド | 2010年 | 2017年 |
| 陽浜(ようひん) | アドベンチャーワールド | 2010年 | 2017年 |
| 優浜(ゆうひん) | アドベンチャーワールド | 2012年 | 2017年 |
| 桜浜(おうひん) | アドベンチャーワールド | 2014年 | 2023年 |
| 桃浜(とうひん) | アドベンチャーワールド | 2014年 | 2023年 |
| シャンシャン | 上野動物園 | 2017年 | 2023年 |
| 良浜(らうひん) | アドベンチャーワールド | 2000年 | 2025年 |
| 結浜(ゆいひん) | アドベンチャーワールド | 2016年 | 2025年 |
| 彩浜(さいひん) | アドベンチャーワールド | 2018年 | 2025年 |
| 楓浜(ふうひん) | アドベンチャーワールド | 2020年 | 2025年 |
| シャオシャオ | 上野動物園 | 2021年 | 2026年 |
| レイレイ | 上野動物園 | 2021年 | 2026年 |
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返還されたパンダは中国のどこで暮らしている?
2023年以降に日本から返還されたパンダたちが、中国のどこで暮らしているのかもまとめました。
いずれも四川省にある、パンダの保護・研究のための施設です。
| 名前 | 返還された年月 | 返還先の施設 |
|---|---|---|
| シャンシャン | 2023年2月 | 中国ジャイアントパンダ保護研究センター 雅安碧峰峡基地 |
| 永明※・桜浜・桃浜 | 2023年2月 | 成都ジャイアントパンダ繁育研究基地 |
| リーリー・シンシン | 2024年9月 | 中国ジャイアントパンダ保護研究センター 雅安碧峰峡基地 |
| 良浜・結浜・彩浜・楓浜 | 2025年6月 | 成都ジャイアントパンダ繁育研究基地 |
| シャオシャオ・レイレイ | 2026年1月 | 中国ジャイアントパンダ保護研究センター 雅安碧峰峡基地 |
※2026年9月時点の情報です
シャオシャオ・レイレイは、2026年9月から碧峰峡基地で一般公開が始まり、元気な姿を見せています。
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日本のパンダは0頭に:2023〜2026年の返還の流れ
2023年から2026年にかけて、日本のパンダの返還が相次ぎました。
その結果、2026年1月以降、日本の動物園にジャイアントパンダは1頭もいません。
国内のパンダがいなくなるのは、1972年にカンカン・ランランが来日して以来、初めてのことです。
| 年月 | できごと | 国内のパンダ |
|---|---|---|
| 2023年2月 | シャンシャン(上野)、永明・桜浜・桃浜(アドベンチャーワールド)が返還 | 9頭 |
| 2024年3月 | タンタン(王子)が死亡 | 8頭 |
| 2024年9月 | リーリー・シンシン(上野)が返還 | 6頭 |
| 2025年6月 | 良浜・結浜・彩浜・楓浜(アドベンチャーワールド)が返還 | 2頭 |
| 2026年1月 | シャオシャオ・レイレイ(上野)が返還 | 0頭 |
今後、日本にパンダが来る予定は?
2026年9月時点で、日本に新しくパンダがやってくる具体的な予定は発表されていません。
一方、世界では中国からの貸与が続いていて、2026年9月にはアメリカのアトランタ動物園へ、新たに2頭のパンダが10年間の予定で貸し出されました。
パンダの貸与は、中国と相手国の話し合いで決まります。日本に再びパンダがやってくるかどうかは、今後の日中間の協議次第といえそうです。

まとめ
パンダの返還ルールと所有権について解説しました。
最近まで日本の動物園にいたパンダは、日本で生まれた子どもも含めてすべて中国に所有権があり、中国から借りている状態でした。
貸し出し期間は協定で決められていて、10年が基本です。
日本生まれのパンダは原則「生後24カ月」が返還期限ですが、実際には協議のうえ、2歳すぎ〜8歳ごろに返還されてきました。
かつては友好の証として贈られていたパンダも、1980年代からは保護・研究を目的とした貸与に変わり、ペアで年間約1億円の協力金が支払われてきました。
2026年1月に上野動物園の双子が返還され、日本のパンダは0頭になりました。日本で生まれ育ったパンダたちは、今は中国で新しい暮らしを送っています。

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