白黒模様のユニークな姿で世界中の人々を魅了するジャイアントパンダ。実は1990年から長年にわたり「絶滅危惧種」に指定されていました。
生息地の減少や竹の枯死、密猟といった複数の要因が重なり、一時は生息数が大きく落ち込んでいたのです。
その後の保護活動によって状況は改善し、現在は危険度が「危急種」へと1段階引き下げられていますが、これは危機が完全に去ったことを意味するものではありません。
この記事では、パンダが絶滅危惧種になった理由、現在の状況、そして私たちにパンダのためにできることを、最新の情報を交えて詳しく解説します。
パンダが絶滅危惧種になった理由とは?
ジャイアントパンダは「野生で非常に高い絶滅のリスクに直面している」として、1990年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種(EN=Endangered)に指定されました。
中国政府による独自の評価でも、同様に絶滅危惧種として扱われてきた歴史があります。
パンダがここまで数を減らした背景には、ひとつの原因ではなく、生息地の環境変化からパンダ自身の性質まで、複数の要因が複雑に絡み合っています。
ここでは、パンダが絶滅危惧種に指定されるほど生息数が減少してしまった代表的な4つの理由を順番に見ていきましょう。
理由1:生息地の減少と分断
ジャイアントパンダの生息地は、中国南西部の四川省、陝西省、甘粛省の山岳地帯の竹林に限られています。
もともと生息域は広くありませんでしたが、19世紀ごろから人口増加に伴う木材需要の高まりや農地の拡大、道路建設などの人間活動によって、生息地は大きく減少してしまいました。
さらに深刻なのが、生息地が「分断」されている問題です。道路や集落によって生息地が細切れのエリアに区切られると、パンダはエリアをまたいで自由に移動できなくなります。
分断された生息地の間を移動できないことで、えさの確保が難しくなったり、近親交配が進みやすくなって遺伝的な多様性が失われたりして、環境変化への適応力や繁殖力が低下する可能性が懸念されています。
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理由2:竹の枯死による食糧不足
パンダの主食は笹や竹ですが、竹は30~120年に一度、一斉に開花し枯死するという特殊な性質を持っています。この現象が起きると、パンダは一時的に深刻な食糧不足に陥ります。
かつては、枯れていない他の竹林へ移動することで乗り越えられる場合もありました。
しかし、理由1で解説した生息地の分断によって竹林の間を自由に移動することが難しくなっており、竹が枯死した際にえさを十分に確保できないおそれが高まっています。
実際に、1970年代半ばに竹の一斉開花・一斉枯死が発生したときには、餓死するパンダが数多く発生したそうです。
さらに、地球温暖化をはじめとする気候変動によって竹林の分布そのものが変化する可能性もあり、パンダの食糧問題は今後さらに深刻化することも心配されています。
理由3:過去の狩猟と現在も残る密猟
パンダは毛皮や肉を求める人々の間で高値で取引されたため、かつては狩猟の標的にされていました。
東京女子大学の家永真幸准教授の試算では、1984年ごろの中国で、パンダの毛皮1枚の値段は、農民20人以上が1年暮らせるほどだったそうです。
それほどの大金になったため、密猟がパンダの生息数に深刻な影響を与えていた時代もあったのです。
こうした状況を受けて、1989年に中国政府は「中華人民共和国野生動物保護法」を施行し、パンダを「国家一級重点保護野生動物」に指定して、捕獲・殺害・売買を全面的に禁じました。
しかし、残念ながら現在も密猟が完全になくなったとはいえず、継続的な取り締まりが必要とされています。
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理由4:パンダ自身の繁殖力の低さ
生息地の減少・分断、えさ不足、密猟といった外的な要因に加えて、ジャイアントパンダ自体の性質も生息数が増えにくい一因です。
ジャイアントパンダは、繁殖力が低い動物としても知られています。
メスの発情期は年に一度、数日間しかなく、出産できる子どもの数も通常1~2頭と少ないため、個体数がなかなか増えない構造的な要因になっています。
これらの理由が複合的に重なった結果、パンダは絶滅危惧種に指定されるまで生息数を減らしてしまったのです。
パンダの絶滅危惧種指定は「解除」された?現在のレッドリストの状況
現在、ジャイアントパンダの絶滅危惧種指定が解除されているのか気になる方も多いのではないでしょうか?
結論から言うと、パンダの絶滅危惧レベルは引き下げられ、絶滅危惧種ではなくなっていますが、「解除」という表現は正確ではありません。
ここでは、国際自然保護連合(IUCN)と中国国内、それぞれのレッドリストでの評価の変遷と、「解除」という表現に注意が必要な理由を詳しく解説します。
あわせて、混同されやすいレッサーパンダの絶滅危惧レベルについても触れていきます。
IUCNレッドリストでの評価引き下げ(2016年)
2016年、国際自然保護連合(IUCN)は、ジャイアントパンダの絶滅危惧レベルを「絶滅危惧種(Endangered=EN)」から「危急種(Vulnerable=VU)」へと1段階引き下げました。
これは、1980年代から続けられてきた中国政府による保護活動の成果が評価されたもので、野生のジャイアントパンダの個体数が増加傾向にあり、生息地も回復していることが確認できたためです。
- 危急種(Vulnerable):絶滅の危険が増大している種を指す区分
- 絶滅危惧種(Endangered)よりは危険度が低いとされているが、引き続き保護が必要な状態であることに変わりはない
中国国内のレッドリストでの評価引き下げ(2021年)
2016年にIUCNが評価を引き下げた後も、パンダの生息地を抱える中国側はしばらく慎重な姿勢を崩さず、独自の絶滅危惧種指定を続けていました。
しかし2021年、中国生物多様性レッドリストにおいても、ジャイアントパンダの評価が「危急種」に引き下げられました。
保護区の設置や野生復帰プログラム、飼育下繁殖の成功など、長年の保護活動の成果が表れたとして、このような評価変更が行われたのです。
IUCNに続く形での引き下げとなったため、国内外で足並みをそろえた評価の見直しとして受け止められました。
野生のパンダの個体数の推移

中国政府が2011〜2014年に行った第4回全国調査(2015年2月発表)では、2013年末時点の野生のジャイアントパンダの個体数は1,864頭と推定されています。
もっとも数が少なかった1988年の1,114頭と比較すると、60%以上増加したことになります。
調査年ごとの推移は以下の通りです。
| 1977年 | 2,459頭 |
|---|---|
| 1988年 | 1,114頭 |
| 2003年 | 約1,600頭 |
| 2013年末 | 1,864頭 |
表からも分かる通り、1980年代に大きく落ち込んだ個体数は、その後の保護活動によって着実に回復してきました。今後の調査結果にも注目していきたいところです。
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「絶滅危惧種解除」という表現に注意
インターネット上では「パンダ 絶滅危惧種 解除」という表現をよく見かけますが、これは誤解を招きやすい言い方です。
「解除」という言葉は絶滅の危機が完全に去ったような印象を与えますが、実際にはジャイアントパンダは現在も「危急種(VU)」に分類されており、依然として保護が必要な状態にあります。
個体数は増加傾向にあるとはいえ、今後の状況次第では再び減少に転じる可能性も否定できません。
「絶滅危惧種指定が解除されたから安心」ではなく、これまでの成果を維持し、さらに発展させるために継続的な保護活動が重要であることを、私たち一人ひとりが認識しておく必要があります。
レッサーパンダの絶滅危惧レベルとの比較
ちなみに、パンダと同じように中国に生息し、笹や竹を食べる動物にレッサーパンダがいます。
レッサーパンダはIUCNレッドリストで「絶滅危惧種(EN)」に分類されており、実はジャイアントパンダよりも絶滅の危険性が高いとされています。
名前は似ていても、2種の絶滅危惧レベルは異なる点も覚えておくとよいでしょう。
同じ「パンダ」と名前につく動物でも、種によって絶滅の危険度は異なります。動物園でどちらかを見かけたときは、こうした違いも思い出してみてください。
パンダの保護活動の歴史と現状
ジャイアントパンダの絶滅危惧レベルが引き下げられた背景には、中国政府や国際的な保護団体による長年にわたる保護活動の積み重ねがあります。
ここでは、中国政府による取り組みと国際的な協力体制、そして残された課題について、具体的に見ていきましょう。
中国政府による保護区の設立や野生復帰プログラムといった地道な取り組みに加え、国際的な連携も、パンダの個体数回復を後押ししてきました。
一方で、保護活動が完了したわけではなく、今も取り組むべき課題が残っています。
中国政府による保護活動
中国政府は、1960年代からジャイアントパンダの保護に力を入れてきました。現在では以下のような取り組みが進められています。
- 保護区の設立と管理:67か所以上の保護区を設立し、生息地の85%以上を保護
- ジャイアントパンダ国家公園:2021年10月、四川省・陝西省・甘粛省にまたがる生息地をひとつながりで守る国家公園を正式に設立。野生のパンダの7割以上が暮らす範囲をカバー
- 森林再生プロジェクト:荒廃した生息地の回復や竹林の再生によるえさの確保
- 野生復帰プログラム:飼育下で生まれ育ったパンダが野生で生き抜くためのトレーニングを行い、自然に還す取り組み
- 飼育下繁殖の推進:人工授精などの技術も活用し、世界各国の動物園や研究施設と共同で繁殖成功率を向上
- 密猟の取り締まり強化:違法な捕獲・売買を防止するための監視体制の強化
これらの取り組みによってパンダの個体数は着実に増加し、絶滅危惧レベルの引き下げにもつながりました。
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国際的な保護活動
中国国内だけでなく、国際的な協力体制のもとでもパンダの保護は進められています。
- 国際的な保護団体との連携:世界自然保護基金(WWF)などが中国政府と協力し、保護区の管理や調査、地域住民への啓発活動を支援
- 研究協力:各国の研究機関や動物園が協力し、パンダの生態や遺伝に関する研究を推進
- ワシントン条約による取引規制:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約の附属書Ⅰに掲載され、商業目的の国際取引を禁止
これらの研究や国際的な枠組みは、パンダの保護戦略を策定するうえで貴重な情報や後ろ盾を提供しています。

WWFのロゴがパンダなのはなぜ?
自然保護団体のWWF(世界自然保護基金)のロゴには、白黒のパンダが描かれています。
モデルになったのは、WWFが設立された1961年に、ロンドン動物園で大人気だったパンダの「チチ」です。
WWFの設立メンバーは、言葉のちがいを越えて、世界中の人にひと目で伝わるシンボルを探していました。
黒い模様の目と、ずんぐりした独特な体の形をもつパンダは、まさにぴったりの動物だったのです。
設立メンバーのひとりピーター・スコットは、白黒だけで印象に残るので、印刷代を節約できることも理由に挙げています。
美しく、絶滅のおそれがあり、多くの人に愛されているパンダは、今も野生動物を守る活動の象徴になっています。
ワシントン条約とパンダ
ワシントン条約は、絶滅のおそれのある野生の動植物を、国と国との取引から守るための条約です。
1973年に採択され、1975年に発効しました。
中国は1981年にこの条約に加わり、パンダは1983年に、中国の求めで規制の対象(附属書Ⅲ)になりました。
そして1984年には、もっとも規制の厳しい附属書Ⅰに移されています。
附属書Ⅰの動物は、商業目的での国をまたいだ取引が原則として禁止されます。
こうして取引が厳しく制限されたことで、中国がパンダを外国に贈ることは1984年ごろを最後になくなり、研究や保護を目的とした貸し出しに変わっていきました。
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保護活動における今後の課題
ジャイアントパンダの個体数は回復傾向にありますが、依然として多くの課題が残されています。
- 生息地の質の改善と拡大:保護区内の生息環境をさらに改善し、生息地そのものを広げていく取り組み
- 「緑の回廊」作り:分断された生息地をつなぎ、えさの確保や個体群間の交流を促進
- 気候変動への対策:気温上昇や竹林の分布変化がパンダの生息環境に与える影響を予測し、適切な対策を講じる
- 密猟の継続的な監視:毛皮などを目的とした密猟に対する監視体制と取り締まりの継続
- 遺伝的多様性の維持:飼育下繁殖個体と野生個体の交流を促進する取り組み
- 地域住民との共存:保護区周辺で暮らす人々の生活とパンダの保護を両立させる持続可能な開発モデルの構築
パンダの生息状況は、最も危機的だった時期からは回復しつつありますが、まだまだ安心できる状況とはいえません。
パンダを守るために私たちにできること
野生のパンダが暮らしているのは日本から遠く離れた中国の山奥ですが、それでも私たち一人ひとりにできることはたくさんあります。
ここでは、身近な行動から始められる4つの取り組みを紹介します。
寄付や消費行動、周囲への情報発信など、今日からすぐに始められることばかりです。
一つひとつは小さな行動でも、多くの人が関心を持つことが、パンダの未来を支える大きな力になります。
無理のない範囲で、できることから取り入れてみましょう。
パンダの生態や現状を知る
まずはパンダがどのような生き物なのか、どのような問題に直面しているのかに興味を持って情報に触れることが、保護活動の大切な第一歩です。
今まさにそうしているようにインターネット上の記事を読んだり、パンダに関する本を読んだりするのもいいでしょう。2026年10月時点で日本の動物園にパンダはいませんが、動物園の映像や、中国のパンダ基地を訪ねることも、パンダを知る大切なきっかけになりますよ。
パンダのことを知れば知るほど、動物園での観察もより楽しめるようになるはずです。
保護団体や動物園の保護プログラムに寄付する
WWFなどの保護団体や動物園の保護プログラムに寄付をすることで、保護区の運営や調査活動など、パンダの保護活動を直接的に支援できます。
保護活動への寄付でいうと、例えば上野動物園の「ジャイアントパンダ保護サポート基金」などが有名です。いきなり大きな寄付はハードルが高いという場合は、次に紹介するグッズの購入など、身近な選択肢から始めてみるのもおすすめです。
どこに寄付するか迷ったときは、よく訪れる動物園のプログラムを選ぶのも一つの方法です。
環境に配慮した消費行動を心がける
収益の一部が保護活動に使われるパンダグッズを購入することも、保護活動を支援する一つの手段です。動物園のお土産売り場の商品をよく見ると、売り上げの使い道が記載されている場合があるのでぜひチェックしてみてください。
また、FSC認証(森林管理協議会による認証)を受けた木材製品や紙製品を選ぶなど、日常の買い物で環境に配慮することも、森林伐採を抑制し、パンダの生息地を守ることにつながります。
こうした小さな選択の積み重ねが、パンダを守る大きな力になります。
パンダの現状を周りに伝える
パンダの現状や保護活動について、友人や家族に話したり、SNSで情報を共有したりすることも、より多くの人に問題意識を伝える立派な保護活動です。
一人で完結する行動でなくても、周囲に関心を広げることで、寄付や消費行動につながる人が増えていくかもしれません。できることから、少しずつ始めてみましょう。
小さな会話がきっかけで、パンダの現状に興味を持つ人が増えるかもしれません。
パンダの絶滅危惧レベルに関するよくある質問
最後に、パンダの絶滅危惧種についてよくある疑問に、短く答えます。
評価や頭数は調査のたびに変わるので、ここでは2026年10月時点の情報をもとに答えています。
パンダはなぜ絶滅危惧種になったの?
生息地の減少・分断、竹の枯死による一時的な食糧不足、毛皮を目的とした密猟、そしてパンダ自身の繁殖力の低さなど、複数の要因が重なったためです。
近年は保護活動の効果もあって生息数は回復傾向にありますが、絶滅危惧種になった根本的な要因が完全に解消されたわけではありません。
パンダの絶滅危惧種指定は解除されたの?
「解除」という表現は正確ではありません。
2016年にIUCNが「絶滅危惧種(EN)」から「危急種(VU)」に引き下げ、2021年には中国国内のレッドリストでも同様に引き下げられましたが、現在も「危急種」として保護が必要な状態が続いています。
危険度が下がっただけで、危機が完全になくなったわけではない点に注意が必要です。
現在、野生のパンダは何頭くらいいるの?
中国政府の第4回全国調査(2015年2月発表)では、2013年末時点で約1,864頭と推定されています。
もっとも数が少なかった1988年の1,114頭と比べると大きく回復していますが、竹林の一斉枯死や気候変動など、今後も個体数に影響を与えうるリスクは残っています。
パンダを守るために私たちにできることは?
パンダの生態や現状を知ること、WWFなどの保護団体や動物園の保護プログラムに寄付すること、FSC認証製品や収益の一部が寄付されるグッズを選ぶこと、SNSなどで周囲に情報を発信することなど、身近な行動から始められることがたくさんあります。
まとめ:パンダの未来のために、今できることから始めよう
ジャイアントパンダは、生息地の減少・分断、竹の枯死による食糧不足、毛皮を目的とした密猟、繁殖力の低さといった複数の理由が重なり、1990年に絶滅危惧種に指定されました。
その後の中国政府や国際的な保護団体による長年の努力によって、2016年にIUCN、2021年に中国国内のレッドリストで、それぞれ危険度が「危急種」へと引き下げられています。
ただし、これは危機が完全に去ったことを意味する「解除」ではなく、依然として保護が必要な状態です。
まだまだパンダたちの未来は安泰ではないため、私たち一人ひとりが、パンダの現状を正しく理解し、できることから行動を始めることが、ジャイアントパンダの未来を守るために不可欠です。

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