モフモフの毛並みやカクカクした動き、そしてなぜかいつも不機嫌そうな表情で、動物園でも最近人気のマヌルネコ。
マヌルネコは、中央アジアの高地に生息する野生ネコで、モフモフの体もカクカクした動きも、厳しい自然の中で生き抜くために獲得した特徴だと考えられています。
この記事では、マヌルネコの特徴や生態について、見た目、行動、繁殖、寿命などのさまざまな角度から紹介します。
また、日本国内でマヌルネコに会える動物園と、私が各地の動物園で観察したマヌルネコの様子も紹介します。
マヌルネコってどんな動物?基本情報
マヌルネコは、ネコ科マヌルネコ属に分類される、中央アジア原産の野生のネコです。
名前や大きさ、生息地などの基本情報を表にまとめました。
| 和名 | マヌルネコ(別名:モウコヤマネコ) |
|---|---|
| 英名 | Pallas’s cat(manulとも) |
| 学名 | Otocolobus manul |
| 分類 | 食肉目 ネコ科 マヌルネコ属 |
| 大きさ | 体長46〜65cm、尾長21〜31cm、体重2〜5kg |
| 生息地 | イランから中央アジア、ヒマラヤにかけての高地(モンゴル・中国・チベット高原の草原が中心) |
| 寿命 | 8〜10年ほど(日本の動物園では16歳まで生きた例も) |
| レッドリスト | 軽度懸念(LC)。2020年に準絶滅危惧(NT)から引き下げ |
| 日本での飼育 | 9つの動物園で26頭(2026年10月時点) |
| 色々な通称 | 「世界最古のネコ」 「世界一モフモフなネコ」 「世界一不機嫌な猫」 |
ほとんどのネコの仲間はネコ属などに分類されますが、マヌルネコは1種類だけでマヌルネコ属を形成し、独特の生態を持っています。
そのユニークな特徴や生態から、「世界最古のネコ」、「世界一モフモフなネコ」、「世界一不機嫌な猫」など、さまざまな通称で呼ばれることもあります。
長く密な毛におおわれているため、ずんぐりと大きく見えますが、実際の体長・体重はイエネコ(ペット用のネコ)とほぼ同じです。

「世界最古のネコ」と呼ばれる理由
マヌルネコは、テレビや動物園の紹介で「世界最古のネコ」と呼ばれることがあります。
一説では、今いるネコ科動物の中でも特に早い時代に枝分かれした系統で、約600万年前からほとんど姿が変わっていないとも言われています。
ずんぐりした体や低い位置にある耳など、ほかのネコとは違う見た目をしているのもこのためかもしれません。
マヌルネコの見た目の特徴
マヌルネコの見た目で特に目を引くのは、「世界一モフモフ」といわれるほどの長くて密に生えた毛におおわれた、ずんぐりした体です。
他にも、顔の形や模様、耳の位置、太くてしましまのしっぽなど、たくさんの特徴が挙げられます。
ここでは、マヌルネコの見た目の特徴の中から、①顔と耳、②瞳、③毛、④しっぽの4つのポイントを紹介します。
見た目の特徴を知っておくと、動物園でも1頭ずつの顔つきや、しっぽの模様、瞳の色の違いに気づきやすくなります。
横長の顔と、低い位置にある耳
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マヌルネコの顔は平たくて幅が広く、身近に見かけるイエネコと比べると横長の形をしています。
また、小さくて丸い耳は、顔と一体化するように低い位置についているので、あまり目立ちません。
イエネコと比べると顔の高い位置に目があり、額は小さめです。
この顔の特徴のおかげで、岩かげや草の間から少しだけ目を出して、獲物や天敵に見つからないようにまわりの様子をうかがうことができると考えられています。
学名「Otocolobus manul」のOtocolobusも、「耳が短い(小さい)ネコ」という意味のことばで、マヌルネコの特徴を表しています。
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丸いまま収縮する瞳孔
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イエネコの瞳孔は、明るいところでは縦長の細い線のような形に収縮します。
一方で、マヌルネコの瞳孔は、明るいところでも丸い形のまま小さくなります。
人と同じように丸い瞳がじっとこちらを見つめるので、ほかのネコとはひと味違う、独特の表情に見えるのかもしれません。
瞳の色は、黄色っぽいものから緑がかったものまで、1頭ずつ個性があります。冷たい風や砂ぼこりから目を守る「瞬膜(しゅんまく)」という薄いまぶたも持っています。
また、額にある黒いぶち模様や、目の下から頬にかかるアイラインのような模様も、1頭1頭を見分けるポイントです。
世界一モフモフなネコ
アメリカのスミソニアン国立動物園によると、マヌルネコは世界のネコ科動物の中で最も密に毛が生えていると言われています。
マヌルネコが生息する高地では、冬に−50℃近くまで気温が下がることもありますが、隙間なく生えた冬毛が体を寒さから守り、体温の低下を防いでくれるのです。
特にお腹の毛は、他の部分と比べて約2倍の長さがあり、冷たい地面に伏せていても体が冷えにくくなっています。
反対に、夏には気温が30℃を超える日もあります。夏になると、ふわふわの冬毛が抜けて、別の動物かのようにほっそりとした姿になります。
しま模様の太いしっぽ
マヌルネコのしっぽは太くてふさふさで、長さは体長の半分ほどあります。
しっぽの途中には黒いしま模様が何本か入っていて、先端は黒くなっています。
輪の模様は1頭ずつ違っていて、東山動植物園では、2025年に生まれた三つ子の赤ちゃんをしっぽの模様で見分ける動画を公開しています。
とってもかわいい「しっぽふみふみ」
マヌルネコは、寒いとき、体に巻いたしっぽの上に前足をちょこんと乗せることがあります。
分厚い冬毛に覆われているマヌルネコでも、肉球には毛がないので、しっぽを使って暖をとっているのです。
前足をのせてしっぽを揉むようなしぐさは、ファンの間で「しっぽふみふみ」と呼ばれていて、とてもかわいいです。
マヌルネコの行動の特徴
一見フワフワして見えるマヌルネコの体は、がっしりした筋肉と厚い脂肪におおわれています。
脚は短く、低い姿勢で獲物に忍び寄るのに向いている一方で、長い距離を走ったり、素早く動くのはあまり得意ではありません。
動物園でも比較的よく観察できる、マヌルネコならではの動き・しぐさ・鳴き声を紹介します。
どれも野生で獲物をねらったり、身を守ったりする生態とつながっていて、イエネコとはひと味違う、マヌルネコらしさがよく出るポイントです。
カクカクした独特の動き
マヌルネコは、少し動いてはぴたっと止まる、コマ送りのようなカクカクした動きをします。
獲物に少しずつにじり寄ってから飛びかかる、狩りのための動き方だと考えられています。
私もいろいろな動物園でマヌルネコを見てきましたが、このカクカクした動きはどの園でもわりとよく見ることができ、何度見てもユニークです。
ビリビリ震えるアンテナのようなしっぽ
マヌルネコを見ていると、しっぽの先だけをビリビリと小刻みに震わせる仕草をすることがあります。
体はじっと動かさず、しっぽの先だけが細かく動くので、思わず目が離せなくなります。
このようにしっぽを動かすしぐさは、野生では狩りのときに使われるそうです。
NHKの「ダーウィンが来た!」でも、しっぽを振って獲物のネズミの動きをピタリと止める「しっぽフリフリ作戦」が紹介されていました。
このしっぽビリビリも、カクカクした動きと同じように、どの動物園でも比較的よく目にすることができます。
マヌルネコの鳴き声
マヌルネコの鳴き声は、イエネコの「ニャー」とは少し違います。
上の動画では、東山動植物園のオスのエルが、メスのハニーに呼びかけるように鳴いています。
少し低めの声で、文字で表すとしたら「アオアオ」のような感じでしょうか。まるでおしゃべりしているみたいです。
マヌルネコの鳴き声は、カクカクやしっぽビリビリと比べると、少しレア度が高いかもしれません。
私自身は、全国各地の動物園に10回以上は行っていますが、鳴き声を聞いたことがあるのは1回だけです。
聞けたらすごくラッキーなので、動物園でマヌルネコを見るときは、静かにそっと耳を澄ましてみてください。
マヌルネコの生態
野生のマヌルネコの生息地や、食べものなどの生態について解説します。
寒さや天敵から身を守りながら生きるために、すむ場所・狩りのしかたなど、さまざまな工夫があります。
動物園で見られる、じっと動かない姿や、物かげにひそんでまわりをうかがう姿も、こうした野生の暮らしとつながっています。
生息地は中央アジアの高地の草原・岩場
野生のマヌルネコは、イランから中央アジア、ヒマラヤにかけての高地に分布していて、中心はモンゴル・中国・チベット高原の草原です。
中国だけで、マヌルネコがすむ地域の約半分を占めています。
すんでいるのは、山地の草原や岩の多い丘・谷などで、標高5,600mに生息していた記録もあります。
雨が少なく乾燥していて、夏と冬の気温の差がとても大きい、厳しい環境です。
雪が深く積もる場所は苦手で、雪が積もりにくい南向きの斜面や、身を隠せる岩場のある場所を好みます。
単独で暮らし、待ち伏せで狩りをする
マヌルネコは群れを作らずに1頭で暮らし、主に朝方と夕方に活動します。
マヌルネコは肉食動物で、主な獲物はナキウサギやハタネズミ、スナネズミなど、群れで巣穴を作って暮らす小さな哺乳類です。
ときどき鳥やバッタ、トカゲなども食べることもあります。
狩りは、物かげに低く身をひそめて少しずつ近づいたり、巣穴の出口で獲物が出てくるのを待ち伏せしたりする方法が中心です。
動物園では、馬肉のほかにマウスやヒヨコ、鶏の頭などが与えられています。鶏の頭を骨ごと食べるほどあごの力が強いそうです。
警戒心が強く、走るのは苦手
身を隠せる木や岩が少ない草原では、マヌルネコはソウゲンワシなどの猛禽類や、牧畜で飼われているイヌにねらわれることがあります。
脚が短く長い距離を走るのは苦手なため、危険を感じても逃げ出すより、地面にぴたっと伏せて動かずにやり過ごすことが多いです。
じっと地面に伏せたマヌルネコは、グレーがかった毛色のおかげで、小さな岩のように草原の景色に溶け込むことができます。
ふだんは岩のすき間や、マーモットなどがほった古い巣穴を、休む場所や子育ての場所に使っています。
動物園のマヌルネコが高い場所や物かげでじっとしていることが多いのも、こうした警戒心の強さの表れかもしれません。
マヌルネコの寿命
マヌルネコの寿命は8〜10年ほどとされています。
日本の動物園では、埼玉県こども動物自然公園のタビーが、2025年1月に国内最高齢の16歳で亡くなりました。
日本の動物園で暮らした、年齢の分かる11頭の平均寿命は約10.4歳で、動物園では8〜10年より長く生きることも少なくありません。
マヌルネコの繁殖と子育て
マヌルネコの繁殖期は冬の終わりから春の初めごろ。野生でも動物園でも、赤ちゃんが生まれるのは主に4〜5月です。
妊娠期間は66〜75日ほどで、野生では一度に平均3〜4頭、多いときは8頭が生まれます。
例えば神戸どうぶつ王国では、2026年5月に6頭が生まれ、5頭が元気に育っています。
150gほどの体重で生まれた神戸の赤ちゃんは、2か月ほどで1kgを超え、7月から母親のアズと一緒に公開されています。
ただし、マヌルネコの赤ちゃんは育つのが難しく、野生では独り立ちするまでに約7割が死んでしまうと推定されています。
動物園のように管理の行き届いた環境でも感染症にかかりやすく、2019年に那須どうぶつ王国で8頭の赤ちゃんが生まれたときは、無事に育ったのは2頭だけでした。
野生の子どもは生後4〜5か月で独り立ちし、メスは1年たたないうちに大人になります。
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マヌルネコの保全状況
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、2020年に「準絶滅危惧(NT)」から「軽度懸念(LC)」に引き下げられました。
当初の想定よりも生息域が広く、数も多いと見込まれたためです。
一方で、一部の地域での密猟や、ナキウサギやネズミの駆除によるエサの減少、鉱山開発などによる生息地の分断が心配されています。
国際的な取り引きは「ワシントン条約」の附属書IIで規制されていて、2024年には「国境をこえて移動する野生動物を守る条約(CMS)」の附属書IIにも加えられました。
- ワシントン条約
正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。野生動物の国際的な取り引きを規制する条約で、マヌルネコが入る附属書IIの動物は、取り引きに輸出する国の許可が必要 - CMS(ボン条約)
正式名称は「移動性野生動物種の保全に関する条約」。国境を越えて行き来する野生動物を、生息する国どうしが協力して守るための条約。マヌルネコは2024年2月の締約国会議(COP14)で附属書IIに加わった
日本国内でも、動物園の垣根を越えて個体数増加のために繁殖の取り組みが進められていますが、国内の多くの個体に血縁関係があってペアリングが難しいことも、当面の課題になっています。
マヌルネコの豆知識
ここまで紹介した特徴や生態以外にも、思わず誰かに話したくなるマヌルネコの豆知識を集めました。
| 「マヌル」の意味 | モンゴル語で「小さいヤマネコ」 |
|---|---|
| 英名の由来 | 1776年にマヌルネコを発見したドイツの博物学者、ペーター・ジーモン・パラスの名前から「Pallas’s cat(パラスの猫)」に |
| マヌルネコの日 | 毎年4月23日は「国際マヌルネコの日」。世界の動物園や保護団体が、マヌルネコの保全を呼びかける |
| マヌルネコの歌 | 那須どうぶつ王国の「マヌルネコのうた」の公式ミュージックビデオが大ヒット。2026年10月時点で550万回以上再生 |
| 赤ちゃんの呼び名 | マヌルネコの赤ちゃんは「コマヌル」と呼ばれることも |
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マヌルネコに会える日本の動物園
日本でマヌルネコに会える動物園は、2026年10月時点で9か所です。
地域別に見ると、北海道・関東・東海・関西にあり、東北・中国・四国・九州にはありません。
動物園名から、各園の展示場所や見どころを紹介した記事に飛ぶことができます。
| 動物園 | 都道府県 | 飼育数 | 見どころ |
|---|---|---|---|
| 旭山動物園 | 北海道 | 2頭 | ・2026年に増築した新展示場 ・雪国ならではの日本一モフモフな冬毛 |
| 那須どうぶつ王国 | 栃木県 | 2頭 | ・屋外展示場「マヌル・アマルハン」(2頭を不定期で展示) |
| 埼玉県こども動物自然公園 | 埼玉県 | 3頭 | ・乾燥した岩場をイメージした「マヌルロック」 |
| 上野動物園 | 東京都 | 4頭 | ・昼の姿と夜の姿を両方観察できる |
| 野毛山動物園 | 神奈川県 | 1頭 | ・2025年11月に園として初めて飼育を開始 |
| 東山動植物園 | 愛知県 | 5頭 | ・2025年生まれのノブ・ヤス |
| ごかつら池どうぶつパーク | 三重県 | 1頭 | ・2025年12月に園として初めて飼育を開始 |
| 王子動物園 | 兵庫県 | 1頭 | ・マヌルネコを含む珍しいネコ科6種 |
| 神戸どうぶつ王国 | 兵庫県 | 7頭 | ・2026年5月生まれの5頭と母親のアズの親子展示 |
ぜひ動物園で本物のマヌルネコに会って、外見や行動をじっくりと観察してみてください。
まとめ
マヌルネコは、中央アジアの寒い高地で暮らす、小型の野生ネコです。
平たい顔や低い位置についた耳、フサフサな体毛は、どれも厳しい自然の中で身を隠し、寒さに耐えるための特徴です。
カクカクした動きやしっぽを震わせる姿、鳴き声など、動物園で観察できる面白い行動もたくさんあります。
日本では9つの動物園で飼育中で、各地で赤ちゃんの誕生も続いているので、ぜひ観察しに行ってみてください。

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