動物園のマヌルネコは、岩山や砂場のある展示場で飼育されていることが多いですが、本来野生ではどんな場所に生息しているのでしょうか?
野生のマヌルネコの生息地は、モンゴルや中国、チベット高原を中心とした中央アジアの高地で、全部で16か国にまたがっています。
この記事では、マヌルネコが生息する国や地域と、生息地の特徴、生息地が抱える課題などについてまとめて解説します。
さらに、日本の動物園で行われている生息地の環境を再現するための工夫などについても紹介します。
野生のマヌルネコの生息地はどこ?
野生のマヌルネコは、東は中国の北東部から、西はイランや南コーカサスまでの広い範囲に分布しています。
また、南北でいうと、北はシベリアの針葉樹林の南端、南はヒマラヤ山脈の北側までを生息域に含みます。
ただし、広い範囲にまんべんなく生息しているわけではなく、この範囲内で小さなまとまりに分かれて、まばらに分布しています。
マヌルネコの生息が確認された国は、以下の表に記載した16か国です。その中でも、特に多くのマヌルネコがいる中心的な地域がモンゴルと中国です。
| モンゴル | まとまった数が暮らす中心地 |
|---|---|
| 中国 | 北東部からチベット高原までにまとまった数が生息 |
| ロシア | モンゴル・中国との国境沿い(アルタイ山脈など)を中心に生息 |
| カザフスタン | 中部・東部に生息 |
| キルギス | 一部の地域に生息 |
| イラン | アルボルズ山脈・ザグロス山脈に生息 |
| アフガニスタン | 北部のバーミヤンで確認された記録あり |
| トルクメニスタン | イランとの国境のコペトダグ山脈などで確認された記録あり |
| パキスタン | 北部のギルギット・バルティスタンで確認された記録あり |
| インド | ヒマラヤの北側でまばらに記録あり |
| ネパール | ヒマラヤの北側でまばらに記録あり |
| ブータン | ヒマラヤの北側でまばらに記録あり |
| アルメニア | ごくわずかに記録あり |
| アゼルバイジャン | ごくわずかに記録あり |
| タジキスタン | ごくわずかに記録あり |
| ウズベキスタン | 1960年代から記録がない |
ロシアやパキスタン、ネパールなどでは、マヌルネコの多くが国境から50km以内の場所で暮らしているそうです。
また、アルメニアやブータンなど少なくとも7か国では、国境を越えて隣国を行き来するマヌルネコがいることで、生息数が保たれていると考えられています。
そのため、マヌルネコを守るには、国際的な協力が欠かせません。
日本には野生のマヌルネコはいない
ここまでの説明からも分かるように、日本には野生のマヌルネコは生息していません。
マヌルネコの生息地は中央アジアの内陸の高地で、海に囲まれた日本は、生息地からは遠く離れています。
日本でマヌルネコに会えるのは動物園だけで、2026年10月時点で全国9つの動物園で合計26頭が飼育されています。
ちなみに、日本に生息する野生ネコは、長崎県の対馬のツシマヤマネコと、沖縄県の西表島のイリオモテヤマネコの2種類だけです(どちらもベンガルヤマネコの亜種)。
どちらも生息数が少なく、絶滅のおそれがある野生ネコとして、国が保護に取り組んでいます。
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マヌルネコの生息地の3つの特徴
マヌルネコが暮らしているのは、標高が高く、寒くて乾いた土地です。
森の中ではなく、見晴らしのよい草原や、岩がごろごろした斜面などが、マヌルネコのすみかになっています。
こうした開けた土地は、マヌルネコの獲物になるナキウサギやネズミの仲間がたくさん暮らす場所でもあります。
マヌルネコの生息地の特徴を、次の3つに分けて説明します。
- 標高が高く、乾燥した草原や岩場
- 夏は30℃超、冬は-50℃近くなる気温
- 身を隠すための岩の多い地形
①標高が高く、乾燥した草原や岩場
マヌルネコの生息地の多くは、標高の高い山地や高原に広がる、乾いた草原や岩場です。
草原といっても、木はほとんどなく、背の低い草や低木がまばらに生える「ステップ」と呼ばれる乾いた土地です。
その中でもマヌルネコは、岩がむき出しになった場所や、岩のかけらが積もった斜面、谷のように起伏のある地形を好みます。
イランやパキスタンの山地では、ビャクシン(針葉樹の一種)の林でも暮らしているそうです。
中国のチベット高原やインド北東部などでは、標高5,000mを超える高地でマヌルネコが見つかった記録があります。
富士山の標高を優に超える場所でも生息できるタフな生き物なのです。
②夏は30℃超、冬は-50℃近くなる気温
マヌルネコが暮らす中央アジアの山地は、1年の気温の差がとても大きい土地です。
冬の気温は-50℃近くまで下がる一方で、夏は30℃を超えることもあります。
マヌルネコは、ネコの仲間の中でいちばん密度が高いといわれるモフモフの冬毛で、この寒さをしのいでいます。その密度はなんと、1cm²あたり約9,000本にもなるそうです。
寒いときは、しっぽの上に座って毛のない足裏を冷たい地面から守ることもあります。
反対に、暑くなると夏毛に生え変わり、同じ動物とは思えないほどすっきりスリムな姿になります。
マヌルネコは、季節によって自らの姿を変化させることで、寒暖差が大きく厳しい環境に適応しているのです。
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③身を隠すための岩の多い地形
マヌルネコはとても警戒心が強い動物で、いつでも身を隠せる場所の近くで暮らしています。
動物園でも、岩かげや高い場所から、じっと周りの様子をうかがっている姿がよく見られます。
そんなマヌルネコの生息地に欠かせないのが、身を隠すための岩のすき間や巣穴です。
マヌルネコは、岩の割れ目や、マーモットなどのほかの動物が掘った古い巣穴を、寝床や子育ての場所に使っています。
こうした隠れ場所が少ない土地にはマヌルネコも少なく、岩場や巣穴の数がマヌルネコの数を左右していると考えられています。
見晴らしのよい草原では、空からワシなどの猛禽類に狙われるので、岩や巣穴の近くにいることが身を守ることにもつながります。
隠れる場所が近くにないときは、走って逃げるのではなく、腹ばいになってじっと動かずにいます。
こうすることで、灰色の毛の体は小さな岩のように周りの景色に溶け込み、天敵の目を逃れやすくなるのです。
マヌルネコの生息地の課題と生息数
マヌルネコは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト(絶滅の危険度を9段階で表す指標)で、軽度懸念(LC)という「絶滅のおそれが低い」とされるカテゴリに指定されています。
軽度懸念に分類されたのは2020年のことで、それまでの「準絶滅危惧(NT)」から一段階危険度が引き下げられました。
一見するとマヌルネコには絶滅の心配はまったくないようにも見えますが、そうではありません。
世界のおとなのマヌルネコの生息数は約5万8,000頭と見積もられていますが、今も減り続けていると考えられています。
生息数が減っている主な理由は、次の3つです。
- 生息地の縮小や分断
放牧や開発で、すみかや獲物が減る - 獲物のナキウサギの駆除
獲物が減り食べるものがなくなる - 密猟や、他の動物を狙った罠
毛皮目的の狩りや、罠にかかる事故
このほかに、飼い犬に襲われることや、道路などの開発、気候変動の影響も指摘されています。
こうした課題に対応するために、2024年には、「国境を越えて行き来する動物を守る国際条約(CMS)」の附属書IIにマヌルネコが加えられ、国を越えて協力して守る取り組みが始まっています。
- 正式名称
The Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals(移動性野生動物種の保全に関する条約)。ドイツのボンで採択されたので「ボン条約」とも呼ばれる - どんな条約か
国境を越えて行き来する野生動物を、暮らしている国どうしが協力して守るための国際条約 - 附属書II
国どうしの協力で保全を進める必要がある動物の一覧。マヌルネコは2024年2月の締約国会議(COP14)で加わった
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日本のマヌルネコがいる動物園
2026年10月時点で、日本国内でマヌルネコを飼育している動物園は次の9か所です。
(動物園名から、各園の展示場所や見どころを紹介した記事に飛ぶことができます。)
| 動物園 | 都道府県 | 飼育数 | 見どころ |
|---|---|---|---|
| 旭山動物園 | 北海道 | 2頭 | ・2026年に増築した新展示場 ・雪国ならではの日本一モフモフな冬毛 |
| 那須どうぶつ王国 | 栃木県 | 2頭 | ・屋外展示場「マヌル・アマルハン」(2頭を不定期で展示) |
| 埼玉県こども動物自然公園 | 埼玉県 | 3頭 | ・乾燥した岩場をイメージした「マヌルロック」 |
| 上野動物園 | 東京都 | 4頭 | ・昼の姿と夜の姿を両方観察できる |
| 野毛山動物園 | 神奈川県 | 1頭 | ・2025年11月に園として初めて飼育を開始 |
| 東山動植物園 | 愛知県 | 5頭 | ・2025年生まれのノブ・ヤス |
| ごかつら池どうぶつパーク | 三重県 | 1頭 | ・2025年12月に園として初めて飼育を開始 |
| 王子動物園 | 兵庫県 | 1頭 | ・マヌルネコを含む珍しいネコ科6種 |
| 神戸どうぶつ王国 | 兵庫県 | 7頭 | ・2026年5月生まれの5頭と母親のアズの親子展示 |
各動物園では、マヌルネコが本来暮らしている岩場の環境を再現した展示が増えています。
動物園でも生息地の環境を再現
旭山動物園では2026年4月に、高地の岩場を擬岩で再現したマヌルネコ舎が完成し、岩や斜面を立体的に使えるようになりました。
埼玉県こども動物自然公園の屋外展示場「マヌルロック」は、乾燥した岩場をイメージして2021年に作られました。
那須どうぶつ王国の専用の展示場「マヌル・アマルハン」も、岩場や木の上など、高いところに登れる造りになっています。
こうした展示施設では、野生に近い環境でマヌルネコを観察することができます。
動物園で岩の上にいるマヌルネコを見かけたら、遠い中央アジアの山の上の岩場を思い浮かべてみてください。
まとめ
野生のマヌルネコの生息地について解説しました。
マヌルネコが暮らしているのは、モンゴルと中国を中心とした中央アジアの16か国です。
生息地は、標高の高い乾いた草原や岩場です。冬は-50℃近く、夏は30℃超にもなる厳しい環境の中で、季節によって姿を変えたり、岩のすき間や巣穴を活用したりして生き抜いています。
一方で、放牧の広がりなどによって生息地の環境が変わりつつあり、野生のマヌルネコの生息数は減少傾向にあると見られています。
日本の動物園でも、生息地の岩場を再現した展示で、マヌルネコ本来の暮らしぶりを感じることができます。

